椅子に座ると、彼女が横に椅子を並べて、
同じ方向を向いて座る。
「それじゃあお願いします。」
「うん…。」
俺は耳かきが好きだ。そして彼女は好きじゃない。
だけど俺と彼女は愛し合っていて、彼女は俺の為に
好きでも無い耳かきに挑戦してくれるのだ。
こういう耳かきと言えば、膝枕かも知れないが、
あいにく椅子があるだけにここはそんなことが
出来る場所ではないし、耳かきをし慣れていない
彼女にとっては、やりづらいかも知れない。
耳垢が落ちる可能性だってあるからね。
俺は前を向いたまま、横から彼女が
耳かきをしてくれる。意外とこれが
医者なんかでもやってもらえる体勢な
だけあって、充分に気持ちいいのだ。
やり慣れていないからか、浅めの所を
首側の方から回転させるように耳かき。
耳には敏感な場所があって、穴の顔側
から頭側にかけてそうだったりする。
彼女は完璧を期するあまり、敏感な部分を
他の部分で耳かきする時に同じ力の為に
俺がビクつくのが嫌なようだ。それも
感覚の反射だからしかたがないのだが。
俺にとって大事なのは、彼女が好きでもない
耳かきを俺の為にやってくれることが
嬉しく、感謝しているのであって、快感や
耳垢がどれだけ取れたかなんて二の次。
やる範囲が浅く、俺があらかた綺麗にした
後にやってもらう事が多いから、それほど
取れないであろう事も予測していたし。
短い時間ではあれど、その時間は全神経を
集中して、彼女からの献身的作業を堪能する。
膝枕なんて相手の脚を痺れさせるだけだろうし。
そんなことしなくたって、俺の耳は充分に気持ちいいのだ。