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耳の洞窟

【男×女】耳かき小説【女性視点】

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【男×女】耳かき小説【女性視点】

―ザリッ、ショリ・・ザリ……

「うーん・・」
 もどかしい。耳がかゆいのに、綿棒で掃除してもおさまった気がしない。
 やっぱり見えないところをいじるというのがネックなのか。まあ見える訳がないんだけれど。
「綿棒だと耳垢を奥に押し込むから逆効果だぞ」
「え?ホントなのそれ?」
「ああ、ホントだ。自分の耳が見えないから尚更な。せめて耳かきとセットでやった方がいいぞ」
「うーん・・耳かきはなあ……」
 彼に提案されたものの、どうも耳かきでする気にはなれなかった。
「怖いのか?」
「うん、まあ」
 やわらかい綿棒はともかく、硬い棒を見えないところに入れるのはやっぱり怖い。
「なら仕方ない、俺がやってやろう」



「耳かきしてくれるのはいいけれど……なんで膝枕なの?」
 少し準備していた彼を待ち…今私は彼のフトモモに頭を乗せている。いわゆる膝枕というヤツだ。
 男の膝枕ってどうなんだろう。
「男だろうと耳かきで膝枕は浪漫だろう?」
「・・浪漫?」
「そう、浪漫」
 まあ、否定はできないけれど……筋肉の硬さをフトモモの上に置いたタオルで軽減しているのが若干むなしさを感じてしまう。記憶にある母の膝枕はそのままでも居心地は良かったから尚更だ。
(うーん、でもお母さんってば耳かきはガリガリやるばっかだったしなあ・・あ、思い出したらトラウマが)
「こら、そんなに硬くなるなって」
「・・だから怖いんだってば」
「余計に痛くなるだけだぞ?…とりあえず最初は拭くだけだからゆっくりしてるといい」
「……ん」

―フキフキフキ……。

 予め用意しておいたお湯につけたハンドタオルで、耳の裏側の付け根や、耳の端にあるフチの溝が…赤ちゃんの肌を拭くように丁寧にやさしく、拭かれていく。
 あたたかいタオル生地の感触が気持ちいい。
「どうだ?」
「うん、いいかんじ・・そーゆーところ拭くんだね……」
「ここはおフロで洗ったり綿棒で掃除したりすることが少ないからな。……ほら、コレ見てみろ」
「……うわぁ……」
 差し出されたハンドタオルは、一部が黄色っぽいヨゴレで染まっていた。女としてもそれを私に見せる彼にも色々どうかと思うけれど、自分の不始末なので文句も言えない。第一してもらってる側だし。
「そろそろ始めるけどその前に・・」
「……ん、くすぐったい・・」
 ハンドタオルの端っこが耳の穴にコヨリみたいに入れられて、サワサワと耳の中が拭かれていく。少しくすぐったい。
 でも、いやな感じではない。適度に熱くて、まるでおフロに入っているみたいだ。
「じゃあ今から耳かきを入れるから、絶対に動くなよ?」
「はーい」
 怖いのは怖いけれど、さっきほどの緊張はなく、耳かきをしてもらう準備はできていた。

―ガサ・・カリッ、ガリ…!

「んん・・」
 竹のさじがガサガサと耳の中で音をたてて、耳垢が削られて中がひっかかれているのを感じる。
 やっぱりちょっと痛いけれど、力まかせにひっかかれるという感じではなく、ガマンできないすこし前くらい、ちょうどいい強さでガリガリとかゆいところがかかれていく……。

―カリ、カリッ・・ササ…ガッ、カリ・・!
―カサ…カリッ、ザリ……カサッ、ガザザッ…!

「・・痛くないか?」
「うん・・ちょうどいいよ…けっこうたまってる?」
「それなりにな。奥にもけっこうデカイのがある」
「ふぅん・・」

―ガリ、ガリ…カリッ、カサ…スス……ガサッ!
―ザリッ……カッ、カリッ・・ガリ…ガザ、ガザッ!!

(きもちいいなぁ…)
 耳の中がスッキリし始めるにつれて、かかれたところがポカポカと熱をもってきた。
 夏に浴びたシャワーやプールからあがったときのあのフワフワ感によく似ている。

―ガ・・カリッ、ガリ…ガサ…ガザザ…カリ…ガリッ…!

「・・よし、中ほどのはだいたい取り終わったぞ」
「ん……次は奥の?」
「ああ。奥まで入れるから、驚いても動いたりするなよ?」
「わかってるってば」

―ザザ・・ゴリッ…!

(わ、ホントにこんなとこまで…)
 動きはしなかったが思わず身体が硬くなる。ふだん自分がいれないところまで耳かきが入り、耳垢を擦る鈍い音が鳴った。
 すごい音が鳴ったのに、さじの部分が直接耳に当たった感触が無い。
 そんなに大きいんだろうか。

―ミリリッ…ゴ…ガザッ、ガリッ!

「っ・・!」
「すまん、痛かったか?」
「うん……」
 昔も経験した耳を強引に擦られる痛みが耳の中でジンジンしていた。かゆいのが無くなってきて気持ちいいのだけれど、耳がヒリヒリしてる。
 ちょっと涙もでてきた。
「ね、耳のなか大丈夫だよね?」
「大丈夫、血も出てないし。耳垢がちょっと硬いから強くしないと取れそうにない。できるだけ加減するからガマンしてくれ」
「・・うん……」
 痛いのは嫌だけど、このまま中途半端で耳かきを終わるのも嫌だった。
 何より、痛みは昔と同じだけれど、今は耳垢がとれる気持ちよさもわかるし。

―ゴッ…ガ、ゴ、ゴゴッ!……ミチッ…ガリッ、ガサッ…ミリリ…!

(あ・・だんだん剥がれてきたっぽい……)
 かさぶたを剥がすような痛みと快感が耳の中でピリピリしている。
 早くとってほしいような、もっと耳かきを続けていて欲しいような、フクザツな気持ちだ……。

―ガサッ、ガリ・・ミチ…ガガッ、ガザッ!ゴッ、ガリッ…!

(・・あ、もう少しっぽい……)

―ミチ、ミリリ…ガリッ、ガサッ…ゴゴ・・カリリッ!
―ガリッ…ガッ・・ゴリッ…ミチ・・ガザ、ガリッ!ガリッ!ガザザッ!!
「っ!!」

 今までのとは比べものにならない、かゆいのが取れる快感が耳の中で奔った。
 耳垢が耳道を擦ってザリザリと音を立てて出ていく。
「・・終わったぞ」
「んー…なんかスースーするなぁ……」
 おっきいのが取り終わって、耳かきが耳から引き抜かれた。
 なんだか奇妙な感覚だ、もともと穴が空いてる場所なのにぽっかりと穴が空いた気がしている。でも悪い感覚じゃない。
 スッキリしてもうかゆいところもないし、彼の声も心なしかさっきよりよく聞こえた。
「こんなのが入ってたからな」
「・・わお、これはひどい」
 ティッシュに乗せられていたのは小指の爪の先くらいはあるでっかい耳垢だった。色も他のより黄色が濃くなっている。
 こんなのが入ってたら耳もかゆくもなるはずだ。

「じゃあ綿棒で細かいの取るぞ」
「え?綿棒はだめなんじゃないの?」
「俺は耳の穴が見えてるから問題ないだろう、たぶん」
 たぶんって。まあ気持ちいいだろうからいいけど。

―ザリリ…ショリ・・ザリ…ズッ…ザザ…カサ…!

 自分でやるときと違って、やわらかい綿の先が、刷くようにして綿棒が耳の中を動いていく。細かいのが綿にショリショリと擦れているのがゆっくり動くお陰でよくわかる……。

―カサ、カサ…ザザ…ショリ…カササ・・スス…ザリリ……!
―スス、ザザ…ショリ、カサ…ガサ…ジリ、カサ…カササ……!

「よし、キレイサッパリ。・・必要ないかもだが梵天もやっとくか?」
「え?なに??……政宗??」
「……そっちじゃない、耳かきについてるフワフワの名前が梵天なんだ。・・で、どうする?」
「よろしくお願いしマス」
「素直でよろしい。じゃ、入れるぞ…」

―ササ…モフ、モフッ…フワ・・フワ…ファサッ…ササ……

(フワフワしてる……)
 硬いもので擦られた耳の穴を、いたわるようにフサフサの綿毛が撫でていく。
 竹の感触とも、綿の質感とも違う、やさしい感触が耳を撫でて……。

―モフ…フワ、フワッ…ササ…ファサッ・・フワ・・モフ……
―ファサ…フワッ…モフッ・・フワモフ・・ササ…フワ、ファサッ……

「・・お疲れ、これで全部終わりだ」
「んー、ありがと。気持ちよかったよ。ちょっと痛かったけど」
「痛いのはお前のせいだろう?こんなにデカイのをため込んでたんだから。痛いならもう片方はやめとくか?」
「もう、痛いって言ったけど気持ちいいっていうのも言ったでしょ?早くやってよ」
「はいはい」



 あの後、彼にもう片方の耳を掃除してもらい、おっきい耳垢も小さいのもとれてキレイサッパリ気持ちよくなった。もう自分でも耳かきで掃除できるけれど、彼が身近にいるうちは綿棒で掃除しようと思う。
 綿棒で耳垢を奥に押し込んで、またおっきいのができたときに取ってもらえたら気持ちよくなれるだろうから。
 ちょっと呆れられたけれど。
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