彼は縁側に寝転がっていた。
今週は、夏休みがはじまったばかりだった。
今日の朝、彼は学校のプール行ってへとへとになるまで泳いだ。
そのせいか体はだるいし、その上眠い。
いまにも深い眠りにおちそうだった。
彼の耳の中には、プールの水が残っていた。
それはぬるく耳の穴を塞いでいた。
すべての音が壁の向こうで鳴っているようにしか聞こえない。
ミーンミンと鳴く蝉も、チリリンとなる風鈴の音も「もぁんもぁん」と
鳴り響くばかりだった。
「あらあら、寝てしまって」
母親が彼の隣に座った気配がした。
彼にひざまくらをしてくれているようだ。
やわらかい…
彼はやさしく耳たぶをつまむ指を感じた。
母親はふっと息をふきかけた。
彼の耳に髪の毛がかかっていたらしい。
母親は綿棒を耳穴に入れた。
途端、シュワッ!と音がした。
綿棒が耳の中の水を吸い取ったのだ。
やさしい竹の耳かきで丁寧に掻いてくれていた。
カリカリカリカリ...
カリカリカリカリ...
コショコショ....
ひざまくらはやわらかい…それに花の匂いもした。
たぶん母親の香水だ。
チリン ... チリンリン 風鈴の音が綺麗に響いた。
ジ--------ワ ジーワ ミンミンミンミン...
蝉が鳴き始めたようだ。
ミンミンミンミン...
カリカリカリカリカリ...
念入りに掻いてくれていた。
耳穴の外に近い部分だけを
ゆるく掻いているだけなのにやたら気持ちが良かった。
縁側の下からひんやりした風がそよいだ。
カリ カリ カリ カリ カリ
カリ..
彼は自分の体や髪からプールの塩素の匂いがするのを感じた。
それはなにか懐かしい匂いだった。
カリ カリ...リンチリン...
...
コリ コリ.. コリ...
木立を吹き抜ける風の音がした。
……--------------ザーーーーーッ-----------……………
ポロポロ..
..ペリッ.. ミーンミーン..
ポロ...カリカリカリ.......カリ...コリ..コリポロ..
...カリ.. ミーンミーン..
...
....チリン...
チリリン リン..
カリ..コリ..
カリ..カリ..
....リンリン...
... ジーワジーワ.....ツクツクボーシ......
カリカリ...カリカリ.....コリッ..
チリン...リン
ミーンミン..チリリン..
...ツクツクボーシ....
....ポロポロ..
ペリッ.. コリコリ... ....ミーンミーン..
....カリカリ...
...ミーンミン......
チリリン リン.. ... カリ..コリ.. コリッ...
コリ..
-----突如、 揺られるような心地よいめまいがした。
彼は眠りにおちていた。