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耳の洞窟

補聴器屋

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補聴器屋

私は補聴器屋だ。
補聴器屋にはお年よりを中心として
耳の聞こえにくい人たちがやってくる。
最も困る客は「耳垢を溜めたまま」来店する人である。
さいしょに、補聴器が耳にぴったり合うよう、
耳穴の型(かた)を取ることになっているが、
耳垢が溜まっていると型が取れない。

初老の客は照れながら言った。
「いゃぁ、何年も耳掃除をしていないものだから、
耳の中でガリボリガリボリとうるさいんですよ、
この店に来る前に耳掃除をしておけばよかったの
ですが、あいにく忘れてしまっていたんです。」
いったいどれくらい耳垢が溜まっているのだろう…?
私は客の耳の中を覗いてみた。
耳の中はおそろしく汚れていた。
耳の毛はジャングルのように生い茂り
奥のほうは耳垢でふさがれているようだった。
ごくり、私はつばを飲み込んだ。
「まず、型を取る前に、耳掃除をして差し上げます。」
と、私は言った。
耳垢を溜めた客には店が耳鼻科を紹介するなり、
帰って耳掃除をしてきてもらうなり、
本来なら「出直して」もらうのが普通だった。
しかし、私はどうしてもこの客の耳垢を採取したかった。
「そうですか。よろしくお願いします。」と客。

ピンセットで耳垢を除去することにした。
カリッカリッ……硬くてなかなかつまむことができない。
私は針を一本取り出した。
耳垢と耳壁の間に針を差し込んだ。
針を耳壁に沿って360度少しずつずらしていく。
‐‐‐ツッ、ピロッ....少し浮いた。
耳垢のフチがめくれて、ピンセットが差し込める!!
ピンセットでつまんで引っ張る。
「ズルゥーーーーリ!!」
外から見ると栓のように見えていた耳垢も、
シッポは蛇のようだった。
サザエを殻から引っ張り出すような感覚だ。
私は悪寒を感じた。

「いゃあ、すっきりしましたよありがとうございます。
いやに耳の聞こえが良くなりましたね。
耳の穴の中に冷たい風がスースーと通って、
聞こえる音の高音部分がキンキンとクリアに響きます。
それに、首や肩や背筋がジンジンと心地よいです。」
客が「もう補聴器の必要はない」と言い出しては困るので、
私は次の段階へ進めることにした。



ところで「テレビのリモコン」を綺麗にする方法を
ご存知だろうか?
リモコンのボタンのふちに、たくさんの埃や汚れが
たまったとき、それを取り除く方法がある。
まず、木工用ボンドを水で溶く。
それをリモコンの表面に塗りつけ数日待つ。
すると固まるのだ。
透明な皮のように張り付いているボンドを
一気に……ベリベリッ!
ボタンのふちに溜まっていたものが
気持ちいいほど剥がれ落ちる。
透明な皮には黒く汚れがこびりついている。
‐‐‐‐‐私はそのことを考えていた。



「多少、耳垢が耳の中に残っていますが、
型を取ってみましょう。」と私は言った。
それこそが私の次のねらいだった。

耳の型を取るために、
まず耳の穴の一番奥(鼓膜の前)にガーゼを詰め込む。
そして、透明のとろりとした液体を耳の中に流し込む。
「ひやりとしますね。」
「固まるまで数十分お待ちください。」

‐‐‐固まったようだ。
透明の固まりを引っ張り出す。
ズルズルズリー!!!
シリコンのような半透明の栓には
うす黄色の粉状の耳垢がビッシリと張り付いていた。
私は震えた。
「テレビのリモコンの快感」を想像以上に
上回るものだった。
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